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Junkieta.netLog → Story, 2004-07-08

猫と僕

  1. 新たな隣人について
  2. 私が出入りするワケ
  3. これからのこと

新たな隣人について

私が最近よく出入りするようになった場所の一つに、やたらパソコンばかりいじっている男の部屋がある。玄関前に灰皿が設置されていることからもわかるが、部屋の内部は常に煙が立ち込めている。私はあまり気にせずに出入りしているが、近年のポピュラーな医学を信仰する方にはオススメできない空間だ。

彼の家には私専用の食器がある。しかし出されるのはいつも味噌汁に残ったダシだ。これは大変困ったことである。せっかくのカツブシもニボシも、その風味を根こそぎ汁にもっていかれている。私は異議申し立てを試みるが、彼は無反応である。時々水を汲んでくれるのだが、私が欲しいのは栄養、そしてとろけるような風味だ。無味無臭の水分ではない。しかし彼は私の叫びを全く意に介さない。傍若無人だ。

しかしかといって私は汁をすするわけにもいかない。人間達は熱した状態で汁をすする。あれではとろける風味どころか舌まで溶けてしまう。何を考えているのやら。しかも私が食せないのを承知した上で、彼は汁を私に差し出す。私は匂いにつられて顔を出すのだが、湯気の熱気に顔を背ける。すると彼はにやりと笑い、汁をすする。これはまさしく世に言うイジメだと私は解釈している。

私が出入りするワケ

このように言うと、なぜそんなところに行くのか、と訝しく思う方々もいるだろう。その答えの一つは、中に入れるということである。私とて、このような場所が好きなわけではない。日々を平穏に過ごすためには、役に立つ場所は使わねばならぬ。そういうことだ。

私のテリトリー周辺には、人間の子ども達がよくうろついている。紳士淑女の猫諸君達には、これがどれほどの苦痛であるか、よくよくわかっていることだろう。人間の子どもというやつは、ひどく野蛮で、残忍なものだ。無遠慮に毛をかき乱され、ひどく臭い飴やらなにやらを口元に押し付けられ、つつかれ、追い立てられる。私の一挙手一投足にわあわあと騒ぎ立て、ひどい時には一時間ほどもついて回られる。こうした拷問を飽きもせずに毎日毎日執り行う連中は他に居ない。

だが奴らも他人の家にはそう簡単に侵入してこない。同種のテリトリーを荒らすことへの危惧は私達よりも強く持っているのかもしれない。私はこの習性を発見したとき目から鱗が落ちた。

これからのこと

男の部屋は避難所である。こうした場所を確保しておくためにも、先住民たる男の権利について考えねばと思う。しかし私とて気遣いに対する相応の扱いを受けていたいと考える。彼は私が近づかない限り、自分から寄ってこない。私は要求を通すために、話しかけねばならない。意地の悪い反応を覚悟しつつも、譲れない一線のためにはそこをあきらめてはならないのだ。

私の尊厳のために言うが、断じてたまに与えられる食事に釣られているわけではない。

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published:2004-07-08